行動分析学とは、行動を分析する学問のこと。人間や動物が行う「行動」には、何かしらの「原因」があり、これを「分析」により解明しようとする学問のこと。
「行動」とは実際に手や足を動かすことだけでなく、汗をかいたり緊張したり思考したりすることも含まれる。死人には出来ないこと全てが「行動」の範疇となる。
一方で、働かない、発言しないといった非行動、叱られる、褒められるといった受け身は行動ではない。
このページは、行動分析学の考え方で部下をマネジメントする方法をメモしたものである。
このページの執筆にあたって参考にした書籍
このページは以下の行動分析学マネジメントの本を参考にしました。この本は発言や行動によって部下や上司の行動が変わることが詳しく書かれています。組織を強化する課題分析やシェイピング、新しい行動を習得するためのチェイニングなど、言葉を借りずに教えることができる手法も書かれています。
行動分析学マネジメント: 人と組織を変える方法論
褒めることは何よりも大事
行動は行動直後の状況の変化によって変わります。例えば部下が上司に業務報告し、上司から褒められたり良いリアクションが返ってくると、嬉しくなりまた頑張ろうと思えてきます。
ここでは、行動=「部下からの業務報告」であり、行動直後の状況変化=「良いリアクションが返ってくる」ということになります。これにより部下の行動が強化され、行動の回数や強度が増えることになります。部下は、上司の「良いリアクション」が刺激となり行動が強化されました。このように行動が強化される刺激のことを「好子(こうし)」と言います。
逆に、上司に業務報告して怒られたりすると、報告したくなくなります。行動の回数や強度が減ることを「弱化」と言います。弱化は、怒られるという直接的な刺激だけでなく、好子が消失することでも弱化が起こります。
部下の士気を低下させる言葉や行動
先ほど説明したように、部下が上司に業務報告して、上司から怒られた場合、部下は業務報告をしたくなくなります。このように「怒る」という、行動の回数や強度を減らす刺激のことを「嫌子」と言います。定時に帰ろうとして上司が舌打ちしたり睨んだりすることも「嫌子」の1つです。
「嫌子」は様々なデメリットがあります。
1つ目は、「嫌子」が繰り返し出現すると耐性がつきます。効きにくくなるということですね。
2つ目は、「嫌子」を与える人間を避けるようになります。嫌味や舌打ちをする上司について行きたくないのはこの理由です。
3つ目は、行動が全般的に抑制されて新しい行動が生み出されにくくなります。行動だけでなく、新しい学習も阻害されます。
4つ目は、「嫌子」は適切な行動を何も教えていないということです。定時で帰る部下に舌打ちするだけでは、部下は何をしたら良いのかわかりません。進捗状況の報告など、帰宅前にやって欲しい行動があるのであればそれを説明するべきです。
5つ目は、「嫌子」は一時的には効果があるが、長期的にみると何の解決にもならないということです。
課題分析
課題分析とは、一連の行動の「何を」変えるのか分析することです。
例えばウォーターフォール型のシステム開発では、大まかにいうと
「要件定義」→「基本設計」→「詳細設計」→「プログラミング」→「単体テスト」→「結合テスト」→「総合テスト」→「システム移行」→「本番稼働監視」
という順番で作業を進めて行きます。
とあるプロジェクトで「単体テストで摘出するべき不具合が後工程で見つかるため改善してほしい」という問題が発生したとします。一連の作業の中でどこに問題があり、どのように改善するのかを分析することが「課題分析」です。この例でいうと、単体テストケース作成の前にテストケースレビューをする、単体テスト作業規程を作成しテスト観点の共通認識を一致させることなどが考えられます。
シェイピング
シェイピングとは、これまで身についていない行動の形を作り上げるための方法のことです。
例えば、ウォーターフォール型のシステム開発作業工程
「要件定義」→「基本設計」→「詳細設計」→「プログラミング」→「単体テスト」→「結合テスト」→「総合テスト」→「システム移行」→「本番稼働監視」
この一連の作業を最初から最後まで完遂できる人材を育てる場合、この順番で作業を進めていき完遂できるスキルを身につけていく必要があります。例えばプログラミングが出来ても単体テストで問題がある場合は、この問題を改善するための行動を強化することが重要です。行動を強化する方法は、褒める・励ますといった「好子」を使う方法だけでなく、必要な知識を教える「ナレッジシェア」も効果的です。
悪い癖の治し方
人にはそれぞれ色々な癖があると思います。その癖のレベルは他人に影響しないものから、業務に影響するため治す必要のあるレベルまで、様々です。
癖は治すことが難しいから癖として残るのですが、その癖の治し方もこの本に記載されていました。その方法とは、プロンプトを使って治すという方法です。
プロンプトというとChatGPTに投げる文章のことを思い浮かべますが、ここでは少し違います。例えば上司に報告する時、主語を省略して話してしまうという癖を治したいとします。その時、報告を受ける上司が「主語を明確に」と発言してから報告させるのです。部下との取り決めで、手をぱっと広げることで「主語を明確にして報告する」というサインにして、部下が報告に来た時に上司が手をぱっと広げて理解させるという方法もあります。
これを2週間ほど繰り返すと癖が治るようになります。
フィードバック
フィードバックとは相手の行動に対して改善点や評価を伝えて軌道修正を促すことです。例えば目標実績面談で部下の実績に対して評価や改善点を伝えることもフィードバックです。しかしこれは行動分析学としてはフィードバックのタイミングがとても遅いのです。ある行動を改善したい場合、面談の場ではなく、次の行動の直前にフィードバックを与えるのが最も効果的とされています。
例えばプログラミング工程でプログラミング規程に則していない書き方をしてしまったとします。このフィードバックを別のプログラムをコーディングする前に行うことが一番効果的です。
人はあまり注意されるのが好きではありません。なので注意するタイミングは一番効果が出る時に集中して行うのがいいと私は考えます。適切なタイミングでフィードバックができると自分も部下も幸せになれるのではないでしょうか。
コメント